『毎日新聞』2016年9月23日□税金はバランス良く使われているのか。2017年度予算の概算要求で、防衛費が過去最高になった。(略)日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは分かる。けれども一方で、国内には貧困や格差拡大など克服すべき問題も山積しているのだが−−。

 まず、この10年間の防衛費の推移を見てほしい。12年12月に誕生した第2次安倍晋三政権が、予算を編成した13年度以降は増え続け、17年度の概算要求段階では過去最高の5兆1685億円(16年度当初予算比2・3%増)となった。 軍事問題や安全保障に詳しいジャーナリスト、前田哲男さんは防衛費の伸びをどう見ているのか。 「大型兵器の調達が増えています。米が開発した1機173億円の滞空型無人機『グローバルホーク』の取得が代表例。日米同盟の強化を掲げる安倍政権が誕生してから、制服組の意向が予算に反映されやすくなっているようです。まさに『防衛版アベノミクス』と言っていいでしょう」

 防衛装備品は13年12月に定めた「中期防衛力整備計画」に基づき導入され、14〜18年度の5年間で必要額は24兆6700億円程度とされている。そこで、17年度予算で購入予定の主な防衛装備品を一覧表にまとめた。目が飛び出しそうな金額が並ぶ。厳しい国際情勢を考えると、「防衛力の整備は待ったなし」とも思えるが、前田さんら有識者は、必ずしも優先順位の高い装備品ばかりではないと批判する。順番に見ていこう。 「グローバルホーク」はレーダーに映りにくい約1万8000メートルの上空から地上を偵察できる。防衛省は「事態が緊迫した際に継続的な警戒監視を行うことが可能」などと必要性を強調するが、前田さんは「日本の専守防衛の観点からは疑問。弾道ミサイル発射の兆候などを把握するのに有効だが、敵基地の先制攻撃が必要だとの議論になりかねない」と首をかしげる。

 沖縄県・尖閣諸島など離島が他国に占領される場合に備え、防衛省は米国製の水陸両用車(AAV7)11両を84億円で購入する予定だ。だが、「どのような場面で使うのでしょうか」と、前田さんの査定は相変わらず厳しい。 現実問題として、中国の正規軍が尖閣諸島を占領することは「日米同盟を相手にした最悪の愚策」で考えにくいという。仮に正規軍が占領した後、日本がAAV7などを使って奪還しようとすると、米国を巻き込んだ日中の全面戦争に突入するリスクが高まる。武装状況にもよるが、漁師や民兵などが離島に上陸しようとするケースは、原則として海上保安庁の出番だ。

 軍事ジャーナリストの世良光弘さんは、AAV7の性能面を疑問視する。「水上での最高速度が時速13キロと遅く、上陸時に敵から狙い撃ちされます。サンゴ礁を乗り越える機能もついておらず、米海兵隊も使いたがりません」。同省は米海兵隊をモデルに「水陸機動団」(仮称)を新編する方針だ。その柱のAAV7について同省は「諸外国の類似品と比較して速度が遅いということはない。サンゴ礁が状況によって障害になりうると認識しているが、サンゴ礁を避けた運用は可能だ」と反論する。